天領盃酒造株式会社
大学卒業後、証券会社へ入社
新潟県佐渡市の日本酒蔵元・天領盃酒造株式会社の経営権をM&Aで取得
代表取締役就任
新ブランド「雅楽代」を立ち上げ
以降、自ら酒造りの先頭に立ち、「蔵元杜氏」として革新的な酒造りに挑戦。国内外の品評会で数々の賞を受賞し、高い評価を得ている。
スペシャルインタビュー
~挑戦が紡ぐ次世代の酒造り~
プロフィール
天領盃酒造株式会社
大学卒業後、証券会社へ入社
新潟県佐渡市の日本酒蔵元・天領盃酒造株式会社の経営権をM&Aで取得
代表取締役就任
新ブランド「雅楽代」を立ち上げ
以降、自ら酒造りの先頭に立ち、「蔵元杜氏」として革新的な酒造りに挑戦。国内外の品評会で数々の賞を受賞し、高い評価を得ている。
経営危機に瀕していた天領盃酒造を再建し、革新的な酒造りへと導いた加登社長の並々ならぬ情熱と具体的な変革の道筋についてお伺いしました。
加登社長が天領盃酒造にご就任された当時の状況、特に経営再建に向けた課題意識についてお聞かせください。
就任当時は「課題しかない」という状況でした。まず、大きな赤字を抱えていましたし、酒造りの設備は40年間ほぼ更新されていませんでした。酒造りにおいても、売れなくなっても普通酒中心のまま。経営面も酒造りも、何もかも変えなければいけない状態でした。酒造りの記録も税務署向けに経過簿などを書いているだけで酒造りに活かされいませんでした。まさに「時代に取り残された企業」でしたね。

そうした状況に対し、どのようなビジョンを描かれ、具体的にどのような変革に着手されましたか?
経営面では、まず赤字解消と無駄な経費の削減を目指しました。酒造りにおいては、品質の向上と構成の変更が必須だと考えました。普通酒が9割を占めていたのを、付加価値の高い純米酒・純米吟醸酒へと転換するため、新銘柄「雅楽代」を立ち上げました。今では純米酒・純米吟醸酒が9割5分を占めています。
この変革と合わせて、2019年からデータ活用を徹底しました。仕込みごとに配合やもろみ経過を記録し、「この配合でこう作るとどうなるか」というデータを集め始めたのです。当初はExcelで管理していましたが、管理の手間やデータ活用の難しさに限界を感じ、効率的なデータ管理を求めて「ラクーラ」を導入しました。

変革の中で、転機や印象に残るエピソードがあればお聞かせください。
一番の転機は2019年の酒類総合研究所の研修でした。
当初、「酒造り経験がない」という理由で一度落選となったのです。でも、「この蔵が潰れる、悠長なことは言ってられない」と直談判し、無理を言って参加させてもらいました。もしあの時参加していなかったら、その後コロナ禍で研修が中止になっていましたので、今の天領盃はなかったかもしれません。
その研修で多くの素晴らしい出会いとご縁に恵まれ、全国の蔵元を訪問する機会も得られました。特に、ある酒蔵の社長を訪ねた際、偶然居合わせた業界で影響力のある販売店の社長とご縁ができ、それがきっかけで販路が大きく広がりました。あの時の直談判と、研修での出会いが、天領盃酒造の全ての変革のターニングポイントだったと思います。
貴社の改革を進める中で、情報管理やデータ活用に関して、どのような課題を感じていらっしゃいましたか?
以前は全てのデータをExcelで管理していました。仕込み配合やもろみ経過、分析値などを毎回登録するのに、別々のファイルを一つずつ開いては入力し、閉じるといった作業を繰り返す必要があったのです。製造本数が増えるにつれて、この作業が非常に手間になり、「手書きの方がマシでは」と感じるほどでした。データとして残せるからやっていたものの、効率面では大きな課題でした。
そのような課題を解決するために、様々なツールを検討される中で、なぜ「ラクーラ」にご注目いただけたのでしょうか?
2021年の夏にある酒造さんへ見学に行ったのがきっかけでした。そこで、もろみ経過のデータ管理について触れ、「いろんな比較が出る、すごいソフトがある」と紹介してもらったのがラクーラでした。長野のIT企業が作っていると聞き、すぐに問い合わせをしました。
「ラクーラ」導入の決め手となったポイントについてお聞かせください。
そうですね、一番の決め手は、当時のExcel管理で感じていた手間が、ラクーラによって「一瞬にして解決される」という点でした。データ入力の煩雑さが解消されることは非常に魅力的でした。
そして、それ以上に大きかったのは、「過去の良いもろみデータと比較ができる」機能です。これは、私が当時求めていた機能というよりは、「こんなこともできるのか!」とプラスαの価値を感じた部分です。データに基づいた酒造りをさらに深く追求できる、という点に強く惹かれて、あまり悩むことなく即決で導入を決めました。また、ユーザーの声を聞いて頻繁にアップデートしてくれるのも大きな魅力です。
「ラクーラ」導入後、貴社の酒造現場や経営にどのような具体的な変化がありましたか?
変化はもう、導入後すぐに実感できましたね。以前はExcelファイルをパソコンで見なければならず、外にいても一つずつ開いて確認する必要がありました。しかし、ラクーラはネットで全てが完結するので、出張中でもリアルタイムで蔵の状況が把握できるようになりました。
また、作業効率が格段に向上しました。自動で入力される温度データに加え、蔵人が分析値を入力すれば私に連絡が来ます。私は携帯一つでラクーラを確認し、BMDや水分のパーセンテージを見ながら、もろみ操作の指示を返す、という形で完結できます。これは非常に楽になりました。効率化と同時に、過去データと比較できることで「再現性の高さ」も向上しましたね。
従業員様の働き方や品質管理にはどのような変化がありましたか?
従業員も「何かあればラクーラを見る」という癖がついています。例えば、次期製造責任者を育成しているのですが、彼が私にもろみ操作の案を提示する際、ラクーラのデータをもとに検討してきます。そのため、私が想定していた答えと彼が出す案に大きなズレはほとんどありません。細かい微調整をすり合わせるだけで済みます。
過去のデータが豊富にあることで、「今日どう操作すればどうなる可能性があるか」という見える化が進み、理論を理解したスタッフであれば大きく品質がブレることはなくなりました。これは品質の安定化だけでなく、社員の成長をサポートする上でも非常に有効だと感じています。「なぜこうなった?」という問いを立て、改善策を考えるための良い教材にもなっています。
また、過去の成功データを元に、新人に試験醸造をさせて「どこまでトレースできるか」といった活用もしています。こうして、ベテランの技をデータで可視化し、若手の技術向上をサポートできるのもラクーラのおかげです。
品質の安定化、そして自信を持って製品を出せるようになるという意味で、非常に大きな効果だと感じています。

データ活用を軸にした酒造りを進めるうえで、ラクーラをどのような“役割”のツールと捉えていますか?
ラクーラは、品質を直接的に向上させる魔法のツールではなく、品質向上への「ヒント」をたくさん与えてくれるツールだと捉えています。「なぜこのような経過をたどるのか」「どこを変えればより良くなるのか」といった考察を深める手助けをしてくれます。
ただし、これを使いこなせるかどうかは使う人次第です。きちんと考えて活用できる人にとっては「最強のパートナー」になると思いますが、何も考えずにただ記録するだけでは、宝の持ち腐れになってしまいます。
社内での具体的な活用法や、特に便利だと感じている機能があれば教えてください。
社内では、先述の通り、新人教育で過去の成功事例をトレースさせる練習に使ったりしています。
一方で、あくまで過去のデータに固執しすぎないよう、あえてラクーラを見ずに新しい造りに挑戦することもあります。常に同じ過去のトレースばかりだと現状維持になってしまうので、より良い造りを探求するためには、時には「見ない造り」も必要だと考えています。その上で、結果を記録し、またラクーラに蓄積していく、というサイクルですね。
機能面では、リアルタイムで麹の品温、室温、湿度が見られる機能は、日常的に非常に便利で、これがないと困るくらいです。外にいても蔵の状態が把握できるので、確認しに行く手間がなくなりました。

今後の天領盃酒造様が目指すビジョンについてお聞かせください。「ラクーラ」のようなシステムは、その中でどのような役割を果たすとお考えでしょうか?
天領盃酒造としては、立ち上げて7年目を迎える新銘柄「雅楽代」をさらに成長させたいと考えています。現在はまだ輸出が全体の1%程度に過ぎませんが、今後は世界に向けて発信していきたいですし、国内でもまだまだ伸びる余地があると思っています。
今後10年間の目標は、「2000石を作れる会社になること」です。
また、佐渡島は観光地でもあるので、日本酒だけでなく、隣接するクラフトビール醸造所「トキブルワリー」、そしてこれから建設するクラフト酒の醸造所も含め、佐渡のおいしいお酒は全て天領盃に来れば手に入る、という「佐渡のお酒ビレッジ化」を目指したいです。最終的には宿泊施設も併設し、佐渡のお酒を心ゆくまで楽しんで泊まれる場所を作りたいですね。
このようなビジョンの中で、ラクーラは、「品質の安定」という最も重要な土台を支えてくれています。どこにいても麹やもろみの状況を確認できる利便性、蔵人の技術向上をサポートするツールとしての活用など、生産性向上にも大きく貢献してくれます。
ラクーラは、まさに「真珠」のような存在です。それをどう使いこなすか、どう輝かせるかは、蔵元次第。蔵元が描くビジョンの品質面を、強力にバックアップしてくれるシステムだと思っています。

他の酒造様に向けて、情報活用やDX推進を検討するうえでのアドバイスや、酒造業界全体へのメッセージをお願いします。
私自身、業界ではまだ勉強中の身ですので、偉そうなことは言えませんが…
天領盃酒造を引き継いだ時、会社は1年後には潰れると言われるほどの状況でしたし、品質も全国的に見ても下位に属するレベルでした。しかし、「動かなければ道は拓けない」と覚悟を決めて行動に移すと、多くの出会いがあり、品質や経営について深く考える機会に恵まれました。
この酒造業界は、「どうせ無理だ」「後継者がいない」「お金がない」と諦めムードが強い分、少し頑張るだけで頭一つ抜き出せる、という良い面もあると思っています。もちろん、ただがむしゃらに頑張るだけでなく、戦略的に、正しいやり方で取り組めば、必ず結果が伴う業界です。
品質を追求し、そして新しいことに挑戦する。そうすれば、必ず道は開けます。この業界全体が、もっと元気になって盛り上がっていけるよう、皆で一緒に頑張っていければと思います。